これだけ変わった日本史教科書

2005.9.12.up

社会科の授業で扱うべき内容は、年々(日々)変化しています。

これは、時事的な要素を持つ「現代社会」「政治経済」や「地理」では言うまでもないことですが、
一般にはあまり変わらないだろうと思われている「日本史」や「世界史」についても
新発見や解釈の変化、重点を置く箇所の変化など、さまざまな変化があります。

試みに、お子さんの教科書を手にとって見てください。
ご自分の時の内容と大きく変わっていることに気づかれると思います。

このコーナーでは、日本史の教科書の変化を調べてみました。
(今年の夏期休業中の研修のテーマの一つでした)


    1. 新旧の教科書の実例として、全国的な採用率の高さも考慮して、1988年版『新詳説日本史』と2005年版『詳説日本史B』(ともに山川出版社)を比較しました。
    2. 範囲については、全体を扱う余裕がなかったので、特に古代前半を選びました。この時代は文献資料が少なく、考古学的な知見による面の特に大きい時代ですし、近年さまざまな発見があり(問題となった捏造事件も含む)、歴史が大きく書き換えられている時代でもあるからです。

       

※1988年版を(旧)、2005年版を(新)としています。

    1.文化のはじまり

    • 人類誕生の時期 (旧)200万年前→(新)500万年前
    • (旧)洪積世→(新)更新世…用語法の主流が変化
    • (新)明石人が遺跡地図から消える…学説の進展
    • (旧)脚注で疑問視→(新)脚注で完全に否定
    • (新)座散乱木遺跡が遺跡地図から消える…いわゆる「捏造事件」への対応
    • (新)「先土器文化」という用語の不使用…用語法の変化
    • 縄文時代の開始時期 (旧)約1万年前→(新)1万年余り前
      それぞれの脚注で、時代設定について複数説があることを説明している
    • 縄文土器の時期区分 (旧)6期とする説もある→(新)6期に区分される
    • (新)縄文土器が「現在のところ世界でもっとも古い」と記載
    • (新)植物採取や農耕の可能性についての記述が充実。…新発見の反映
    • (新)三内丸山遺跡についての記述追加…新発見の反映
    • 石棒の取扱 (旧)写真あり説明なし→(新)写真なし説明あり

    2.農耕社会の成立

    • 中国での農耕開始 (旧)紀元前5000〜4000年→(新)紀元前6500〜5500年
    • (旧)沖積世→(新)完新世…用語法の主流が変化
    • 九州北部への稲作の伝来 (旧)紀元前3世紀頃→(新)紀元前5世紀前後
      (新)さらに炭化物のAMS法による新説(紀元前10世紀)を脚注で紹介
    • 弥生文化の成立 (旧)上と区別無し→(新)紀元前4世紀初め
    • (新)稲作の伝来ルートに南西諸島経由説を追加
    • (新)かつては弥生後期からとしていた田植えや灌漑水路を前期からに
      それにともない、(旧)「籾は直播きされ」は削除 …学説の進歩
    • (旧)「蒸し器としての甑」→削除 …重要度の低下
    • 沖縄の文化 (旧)南島文化→(新)貝塚文化 …用語法の変化
    • (新)ブタの飼育、再葬墓、岡山楯築墳丘墓など新発見の追加
    • (新)青銅器について、「青銅製祭器」という新語を使用し、神庭荒神谷遺跡や加茂岩倉遺跡の発見を追加し、新解釈も記述。
    • (新)吉野ヶ里遺跡の追加 …新発見
    • (旧)金印の読み方の一説「漢の委奴の国王」→(新)削除、(新)では金印の当時の使用目的の説明が加わる。
    • (新)「後漢書」の倭国王の生口献上の記述が追加
    • (旧)邪馬台国への里程の2つの説の比較図→(新)削除
    • (旧)壱与→(新)壹与 …魏志倭人伝の記述のままに(誤字であるという解釈をめぐる論争が念頭?)
    • (旧)「男子による王権世襲制がまだ確立していなかった」→(新)削除
    • (新)「九州の邪馬台国が東遷した」説の紹介 …神武天皇神話重視?

    3.大和政権と古墳文化/古墳とヤマト政権

    • 古墳時代の開始 (旧)3世紀末→(新)3世紀後半
    • 古墳時代の区分 (旧)前期:3世紀末〜4世紀半ば/後期:5世紀末〜6世紀
      →(新)前期:3世紀後半〜4世紀/後期:6世紀〜7世紀  …学説の進展
    • 初期の古墳 (新)東日本では前方後方墳が多かったことを追加 …新発見の追加
    • (旧)大和政権→(新)ヤマト政権 …用語法の変化
    • (新)前期古墳にも「家形埴輪…器財埴輪」を追加
    • 天皇陵古墳の名称の語法の変化
      (旧)仁徳天皇陵(大山古墳)・応神陵古墳(誉田山古墳)
      →(新)大仙陵古墳(現,仁徳天皇陵)・誉田御廟山古墳(現,応神天皇陵)
    • (旧)中国吉林省集安県→(新) 集安市
    • 好太王碑文の訓読方法の変化 …学説の進展
      (旧)「海を渡りて百残□□□羅を破り」→(新)「海を渡りて百残を破り新羅を□□し」
    • (旧)「加羅(任那)に進出」→(新)「伽耶諸国(加羅)と密接な関係」 …解釈の変化
    • (旧)帰化人→(新)渡来人 …用語の変化 渡来の理由も追加
    • (新)漢字の使用についての金石文の取扱が縮小。写真の削除など。特に石上神社の七支刀や隅田八幡宮人物画像鏡は完全にカット。
    • (新)後期古墳の説明や歴史的解釈が充実。
    • (新)豪族の居住についての説明が増加。身分差を強調。…新発見による学説の進展

     

    これ以降の時代の教科書の記述の比較も、今後機会を作って進めていきたいと思っています。


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