中国語を学んだことのある方はご存じでしょうが、現在の中国(中華人民共和国)で使われている漢字の多くは、極端に省略された字体をしています。例えば雲→云 機→机
などです(ほとんどはパソコンで出せない)。これを簡体字と言います。
これに対して台湾(中華民国)は、簡体字を使わず、もとの字体を使っています。これを簡体字に対して繁体字と読んでいます。比較のため、双方の切手(かなり古いですが..)を見てみます。
中国の「国」、郵便の「郵」を比べてください。
ちょっと横道にそれますが、「国」の場合は日本の新字体と簡体字がたまたま(?)一致しているから問題ないのですが、一致しないことも多いのです。
繁体字
日本の旧字体 中国の簡体字 從 →→→→ 従 从 →→→→→→→→→→→→→ 氣
→→→→ 気 气 →→→→→→→→→→→→→ 廣
→→→→ 広 广 →→→→→→→→→→→→→ 日本語と中国語が一致しないのは漢字だけではありません。例えば、次の言葉は日本語にもありますが、中国語だと意味が少し(または大きく)変わります。
中国語の意味 手紙 トイレットペーパー 新聞 ニュース 愛人 配偶者 汽車 自動車 湯 スープ 勉強 無理をする この辺は、授業の盛り上がるところかと思います。最後の「勉強」は、「値引きする」という意味に変化して、関西ではいまでも(上の世代ほど)使われています。
さて、本題にもどりましょう。
簡体字は中国、繁体字は台湾、ということでいいわけですが、中国系=華僑の多い東南アジアではどうでしょうか。実は、国にもよるのでしょうが、混在しているようです。
例として、マレーシアの新聞を見てみます。
ちょっと古いのですが、下のA・Bは1993年にマレーシアへ旅行した同僚から拝借した新聞『新明日報』の見出しの一部です。
←A ↑B 簡体字です。読めますか?(授業ではクイズ形式にできます)
次に、下のa・bは、同じ日のマレーシアの別の新聞『星洲日報』の見出しから抜き出したものです。Aとa、Bとbは対応しています。こちらは読めると思います(この日は12月25日でした)。
↑a b→
2つの新聞の差ですが、どちらかというと上の『新明日報』の方がライトな感じがしました。雰囲気や対象となる読者の層によって使い分けているのではないかと思います。
以下、2002.01.13.訂正・追加
オマケです。
☆『星洲日報』にも『新明日報』にも、映画の広告がありました。当然ですが写真は「世界共通」で、大きな字が漢字表記になっています。それを見てみると....。
↑「鉄」が繁体字になっています。←こちらは、「愛」や「続」が簡体字です。 ☆こちらは、『新明日報』にのっていた電子手帳の広告です。ちょっと見にくいですが、「繁体字・簡体字対照」とか「英語・中国語・広東語・日本語」などの売り文句が読みとれます。
もう一つ、おまけです。
数年前に世界史を担当した時、この「簡体字と繁体字」の学習の前に、日本文化と漢字との関係について触れたことがあります。関連する内容ですので、その時のプリントの内容を以下にご紹介します。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 漢字は日中共通だから、筆談なら中国人と会話ができる、というのは正しくない。│
│中国語と日本語では、言葉も文字もかなり違ってきている。 │
└──────────────────────────────────────┘【まとめ1】日本と中国の、言葉と文字の関係
古代中国…東アジアでとびぬけた( 先進 )国 <例>高度な文化、圧倒的な( 軍事力 )
→中国語と( 漢字 )は、東アジアの( 公用語 )だった。
他の国や民族は、自分たちの( 文字 )を長い間持てなかった。→日本では、次のようなことを行った。
a.漢字のもともとの発音=当時の( 中国語 )を( 音読み )とし、
その意味に当てはまる日本語を( 訓読み )とした。
<例>「山」…音は「サン」、訓は「やま」
※ その後、中国では( 発音 )が少しずつ変わった。そのため、日本の漢字の音に、
昔の中国語の音が残っている。
<例>「北」…音読みは「ホク」だが、現代中国語では「( ペイ )」。
b.多くの中国語を、そのまま新しく取り入れた。これを( 漢語 )といい、
もともとあった日本語を( 和語 )という。
<例>「誕生」は漢語、「うまれる」は和語。
c.日本語を文字記録にする場合は、次のどちらかを選んだ。
ア.漢字の音か訓を使って( 発音 )のままにあらわす →( 万葉仮名 )
<例>「しらず」を( 思良受 )、「みやこ」を( 美也故 )
イ.意味を漢語に直してあらわす
<例>「しらず」を( 不知 )、「みやこ」を( 京都 )→ 日本では、( 平安 )時代に( かな )が発明される。
→a.文字を使うことが( 容易 )になり、これまで漢語や漢字を十分に使えなかった
身分の( 低い )人々へも、( 文化 )が広まっていった。
b.( 漢字 )も同時に使われたので( 使い分け )ができるようになり、日本語の
( 表現 )が豊かになった。【まとめ2】現在の漢字・漢語は、中国では通じないものがある。
A.( 和製漢語 )…日本人が考えて作った漢語
<例>「返事」→中国では「( )」、「火事」→「( )」、
「見物」→「( )」、「風船」→「( )」、
「自動車」→「( )」 など
中国語は日本でも使うことが多く、日本では両方を意味の差で( 使い分け )ている。
また、和製漢語の中には、中国でも使われているものも多い。
逆に、中国語の中には、日本語と似ているが別の意味に使うものもある。
<例>「愛人」→( )、「湯」→( )、「新聞」→( )、
「手紙」→( )、「飯店」→( 旅館 )、
「勉強」→( )、などB.( 国字 )…日本人が作った漢字
<例> ( 畑 )・( 畠 )→中国では「田」がこれを表す
( 笹 )→「篠」、( 渕 )→「淵」、( 匂 )→「臭」 などは別の漢字がある。
他に、枠・辻・榊・塀など。
当然、( 音読み )がない。例外的に、「( 働 )」には「ドウ」という音があり、
この字は現在は中国でも使われている。C.日本で作られた漢字の( 略字 )
戦後、( 教育 )の普及のため、多くの漢字が省略された。
<例>「( 廣 )」→「広」、「( )」→「従」、「圓」→「( 円 )」、
「禮」→「( 礼 )」、「畫」→「( 画 )」、「寫」→「( 写 )」、
「體」→「( 体 )」、「戀」→「( 恋 )」、「辯」→「( 弁 )」、など
ただし、もとの字=旧字でも( 通じない )ことが多い。【まとめ3】漢字の字体の歴史
一つの漢字に微妙な違いがあるもの…( 異体字 )という。
<例>島と( 嶋 )、峰と( 峯 )、裏と( 裡 )、など
( 印刷 )が発達していなかった時代は、書物も( 写 )されていた。
→個人の書きやすさなどで、いろいろな字体ができた。
大胆な省略もあり、今でも地名や人名に残っている。
<例> 「ヶ」を「( コ )」と読む…「ヶ」は「( 個 )」の省略「( 个 )」から。
「日下部」を「( くさかべ )」と読む…「日」は「( 草 )」の省略ではないか
という説がある。
漢字の近代化…明治以降、字体の統一
・( 活字印刷 )の一般化
→異体字は手間や( 費用 )がかかる
・近代的( 教育 )の普及
各バラバラの寺子屋教育から( 共通 )の教材による授業第二次大戦後…漢字の簡略化
かつての略字(異体字)を使ったり、さらに省略する
日本 ( 当用 )漢字<1949年>…現在は常用漢字という。新字体。
中国 ( 簡体字 )<1954年>
中国には( かな )がないので、( 教育 )の普及のために、漢字の簡略化は
日本より重要な問題。( 台湾 )・香港 旧字体のまま…( 繁体字 )という。
東南アジアなど( 華僑 )の人々…簡体字と繁体字を混用
└─海外に移住した( 中国人 )とその子孫